「中学校学習指導要領案」について
「中学校学習指導要領案」について
2017年3月15日
大阪教職員組合
(1)英語教育について
今回示された「改定案」では、小学校からの英語教育の早期化・教科化の影響が中学校にも及んでいます。小学校で扱う単語数が600~700語程度とされており、現行の中学校学習指導要領の半分近い単語数を扱うことになっています。そして中学校で取り扱う単語数が1500~1800語となっており、子どもたちには過度な学習負担を強いることになります。また、中学校卒業段階の単語数も、現行の指導要領の1200語から、最大で2500語と倍増します。ここには大きな課題があるといえます。
それに加え、中学校での英語の授業は原則英語で行うものとされており、授業が高度化するおそれがあります。取り扱う単語数が大幅に増加し、授業が英語で行われることにより、授業がわからずついていけない生徒や大量の英語嫌いを生み出す危険があります。発達段階や系統性を鑑みても、大きな問題をはらんでいるとしか言いようがありません。このような英語教育は行うべきでありません。
(2)道徳の「教科化」について
道徳は一人ひとりの内心にかかわるものであり、教科として指導内容を国が規定することは大きな問題です。教科になることで、国が示す検定基準に応じた教科書を使用することになり、評価を行うことになります。検定された教科書を使用することは、特定の価値観を押し付けにつながり、評価においても「数値による評価は行わない」とするとしていますが、そもそも子どもたちの心に評価をつけること自体が、大きな問題です。
また総則の第1では道徳教育をとりたて、「我が国と郷土を愛し・・・」とあり、第6の「道徳教育に関する配慮事項」でも同様のことが書かれ、「愛国心」に偏重していることはとても問題があり、子どもたちの内心の自由を侵す危険性があります。そもそも道徳性は、子どもたち一人ひとりが日常の生活や学習の中で主体的に身につけていくものです。それを国が規定した内容とそれに応じた検定教科書を使い行われる、教科化された道徳の授業は、特定の価値観の押しつけを行い、子どもたちが主体的に道徳性を身につけることはできません。
(3)育成すべき「資質・能力」について
「改定案」では、前文を新たに設け、教育基本法第2条の目標を書きこみ、「我が国と郷土を愛する」など「愛国心」の押しつけを幼稚園段階から強化するものとなっています。国旗・国歌の押しつけをはじめ、道徳の「教科化」にもみられるように、特定の価値観の押しつけによる、内心の自由の侵害が強まることが大きく懸念されます。
また今回の改訂で、国が求める「資質・能力」が明記されています。本来、教育の目的は「人格の完成」であり、子どもたちの全面発達を保障するものです。しかし、国が新たに育成すべき「資質・能力」を規定することは、教育の目的を「人格の完成」から国や財界が求める「人材育成」へと変質させるものでしかありません。また、その育成すべき「資質・能力」の中に「人間性」までも含まれていることは大きな問題です。これは、子どもたちの人格形成までをも管理・支配しようという表れであると考えます。これは、道徳の教科化・全教科の道徳化を教育目標に反映させたものです。個人の尊厳を守り、子どもを成長・発達の主体として全面発達を保障するためにも、国が子どもの人格をまるごと評価、管理しようとしていることは断じて許すことはできません。
(4)教育方法、評価方法、学校管理運営まで及ぶ、管理と統制の強化について
「改定案」では、「アクティブ・ラーニング」という言葉は消えましたが、「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」が強調され、授業方法にまで踏み込んでいることに変わりありません。また、「カリキュラムマネジメント」の重要性が強調されていることも大きな問題です。あくまで学習指導要領は教育内容の大綱的基準であり、今回の「改定案」のように、教育方法や評価方法、学校管理運営にまで踏み込むことは、学習指導要領を用い学校への管理と統制を強めることにつながり、断じて許すことはできません。
以上より、「中学校学習指導要領案」の抜本的見直しを求めます。
(2017.4.7)