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大阪教育「シリーズ~不当な支配に服することなく~」まとめ

2021年3月から6月にかけて、3回に分けて連載していましたシリーズ「不当な支配に服することなく」について、「まとめて読みたい」という声が寄せられていましたので、掲載します。

※挿絵やイラスト、塾産業の広告がたくさん入った学校配布物の問題点については省略しています。

 

大阪教育「シリーズ~不当な支配に服することなく~」まとめ

1.「着々とすすむ教育への介入」

 2020年2月27日の「一斉休校」は、学校現場に大きな混乱を引き起こしました。この休校要請は、それまで文科省や府教委が通知していた基準を無視するものでした。

 憲法と教育の条理に立ち、「不当な支配に服することなく」行われなければならない教育ですが、教育 基本法の改悪後、より激しい介入にさらされています。

 

多忙化の中での巧妙な介入

 粛々と教育への介入が進んでいます。例えば、子どもへの配布物として学校に届く「○○新聞」です。「大阪府教育委員会協力」となっていますが、記事のほとんどが発行している企業のもので、内容や広告について、教育委員会はほぼ関与していません。配布物を通して学校が財界や教育産業の利益追求に加担する状態になってしまいます。大教組では「配布するかどうかは学校の判断である」ことを繰り返し府教委に確認してきました。

 また、大阪府での「万博教育プログラム」は、やはり「教育委員会協力」としながらも、実態は経済産業省などが中心となった公益社団法人が、直接学校の教育課程に介入できる内容です。

 これらのことは明白な「財界による介入」ですが、その巧妙なやり方により、気づきにくい形で介入が繰り返されています。

 

 

 

「不当な支配」とは ~なぜ教育は独立していなければならないか~

 

不当な支配2

教育基本法では、「教育は、不当な支配に服することなく」という言葉が、改悪を乗り越えて残されています。そもそも教育は、教

 「学問の自由」「教育実践の自由」を守り、教育は独立していなければならないのです。 ここで、「不当な支配」とは、政党や官僚、財界などをはじめ一般に教育の独立を侵す存在とされています。戦前の、国家統制による軍国主義教育の反省に立つ、民主教育を進めるうえでの教育の「中立性」と、「不偏不党性」を守る理念です。それは、改悪の中でも変えることはできませんでした。なぜならば、大教組の主張でもあるように、「教育は憲法と教育の条理に基づき、子どもの心身の伸びやかな発達を保障し、真理と真実に基づいて進められる」ものだからです。育を行うものが自分の責任と判断で行うものであり、「不当な支配」から自由であるのは当然のことです。

 

2.「GIGAスクール構想」と「業者テスト」は何が問題か

 新型コロナウイルス感染拡大の中、一気に進んだ「GIGAスクール構想」の一人一台端末。また、全国学テとチャレンジテスト、すくすくテストなど、業者が作成から採点までを行う「業者テスト」。こうした施策の中にも教育への介入が潜んでいます。

 

「GIGAスクール構想」の何が危険なのか

 2020年度、コロナ禍の中「一人一台端末の整備」などの「GIGAスクール構想」に基づく施策が、5年分の予算を前倒しして強行されました。ICTが「学ぶためのツール」としての可能性を持つことを否定するものではありません。しかし、この間進められている「GIGAスクール構想」は、また異なる側面も持っています。

 

「GIGAスクール構想」のねらい

 

 それは、国家が学校を通じてビッグデータを収集し、学校段階から国民を管理統制する体制を形作ろうとしている点です。

公教育の場から営利目的の民間産業に歯止めなく個人情報が預けられることになり、過去のClassiの例のように、個人情報の流出などの重大な問題も懸念されます。

 さらに、全国学力テの結果や、「学校健康診断の電子化」「体力測定結果のデータ化」など、国の「マイナンバー制度」と紐づけられれば、学校教育の場が「国家のために個人情報を集約する機関」とされてしまう危険性があります。「自衛官適齢者名簿の提供」も、デジタルデータを用いて簡単にできてしまいます。

 「働き方改革」「業務の効率化」「個別最適な教育」など、一見魅力的な言葉の裏には、子どもたちの様々なデータを紐づけして吸い上げ、政府や財界が 学校段階から国民を管理統制する意図が潜んでいます。

 

 

 「業者テスト」の何が問題のか

 大阪府はこの間、中学生「チャレンジテスト」や小学生「すくすくテスト(現在はすくすくウォッチ)」など、様々な一斉テストを行ってきています。また、政府では全国学テも継続されています。一斉テストは競争教育を煽り立てるものです。それだけでなく、業者テストは「作成・採点を業者が担当」しています。教育委員会や文科省は「教職員の採点の負担が軽減される」としていますが、業者テストは学校の実態、子供たちの実態は一切考慮されません。

 学校では、こうした業者テストに対して、「授業中にテスト対策を行う」「テスト後にコピーを取って自校で採点をして点数アップのための授業をする」など、「業者テストに合わせた授業」が行われているところもあります。これではまるで「子どもたちを業者テストに合わせるための学校」です。業者テストを学校の指標としてしまうことは、「業者により学校の教育課程が決められる」ことになります。業者も、国も、府も、、押しつけテストを通じて学校の教育課程に介入しているのです。

 

3.「中教審答申」と教育への介入

 2021年1月26日、中教審は「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」(以下「中教審答申」)を出しました。「新学習指導要領」の完全実施すら完了していない段階での、拙速な発信には、どのような意味があるのでしょうか。

 

「中教審答申」何が問題か?

 今回の「中教審答申」は、教育への介入を加速させる、非常に大きな問題があります。「はじめに」で、「文部科学省をはじめとする関係府省及び教育委員会、首長部局、教職員、さらには家庭、地域等を含め、学校教育を支える全ての関係者が、それぞれの役割を果たし、互いにしっかりと連携する」と書かれています。これは、教育に対して「文部科学省以外の省庁」などの介入を許す、きわめて危険な表現です。この裏には加速する社会の変化への対応を求める内閣や経産省、財界などからの圧力があります。「Society5.0」を理由とした「GIGAスクール構想」や、情報の一元化、分断を生む「個別最適な学び」など、経済界や国の教育への介入を一層加速させようとしています。

 

「中教審答申」に見る介入

 「中教審答申」には、AIやビッグデータを活用した「個別最適な学び」や「教育のICT化」など、経団連の「。新成長戦略」の影響が色濃く見られます。また、国や財界の示す「Society5.0」にむけた「人材の育成」を教育の目的としており、経産省や総務省、内閣府主導での教育介入を助長する内容です。

 こうした介入がもたらすものは「教育の不安定化」であり、子どもたちの学習権を侵害するものです。例えば、大学入試の英語の「外部検定」導入がありました。これは、文部科学省が方針を打ち出したものですが、そもそも地域の実態や家庭状況により大きな格差が生じることが示される中で、延期となりました。この結果、多くの受験生が影響を受けることとなりました。また、「JAPAN e―ポートフォリオ」が、運営費用の不安定さなどの理由から認可取り消しとなり、多くの高校生の学びのデータが削除されました。

 「中教審答申」は、「予測不可能な社会への対応」を求めています。そのために必要なのは、普遍のものとして連綿と受け継がれてきた学問の素地です。

 予測不可能な社会に合わせて変化し、利潤の最大化を追求する企業の論理と、中立性と不偏不党性を重視する学校教育はそもそも相容れません。

 

さいごに

 政府や財界は、様々な手段で巧妙に教育への介入を進めています。少しの介入でも繰り返されると、徐々に危機感が麻痺してしまい、大きな介入を許してしまいます。それは、教育そのものの破壊へとつながります。

 これに対抗するために必要なものは、私たち教職員が専門職性を発揮して、教育の条理に基づいた学校づくり、教育課程の自主的編成を行うことではないでしょうか。民主教育を進めるための教研活動が、今後も一層求められています。

(2022.3.18)